欧米諸国では、個々の児童生徒の事情を踏まえた小中学校レベルでの早期入学や飛び級そして落第が一般的に行われています。しかし、そうした子どもに特別な教材を用意することはありません。習熟度にふさわしい学年に所属替えの措置をするだけです。それは才能を持つ子どもに特別な指導・支援をする教育とは異なると考えるべきです。
そのような措置を可能にするには、現行の学校教育法が定めるような厳格な年齢主義を制度的に見直す必要がありますが、その議論の素地は未だ形成されていません。文部科学省の有識者会議が日本の才能教育の充実に向けた施策を提言しています。
会議では、特異な才能を持ち、同年齢の子どもより明らかに高い達成度を示すがゆえに、通常の学級では不都合な状況にある子どもへの特別な指導・支援について検討しています。才能ある児童生徒への教育実践は、2つの軸に大まかに分類されました。一つは他の子どもと一緒に学ぶインクルーシブ型か、対象児童生徒を他と分けて指導する取り出し型かという軸です。もう一つは上級の内容を先取りして学ぶ早修型か、通常進度の内容をより深く体系的に学ぶ拡充型かという軸です。
Ⅰの象限には、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)などの教育活動が代表的な実践として入ります。Ⅱには一部の中高一貫校などで行われる、4~5年間で全教育課程を終える教育実践などが入ります。その早修により生じた余裕の期間は受験準備に費やされますが、拡充的な学習活動に充てる学校もあります。
Ⅲの例は、大学への早期入学が入ります。単に1年早く入学させるだけの早修ではなく、特別な授業や留学プログラムなども用意された拡充的な教育プロジェクトの性格が強くなっています。この象限には学校教育の進度を超えて、個別に先取り学習を進める民間の学習塾等も含まれます。最後のⅣには、取り出し型で創造性の伸長を目指す公私の多様な実践が入ります。
現在の日本でも才能を持つ子どもへの指導・支援の場はあります。問題は、そうした場が地域的に偏在し、経済的な条件によっては利用が困難であることや、情報も偏在しています。教師をはじめとする社会の側に才能のある子どもを見い出し理解するための知識や能力、アセスメントのツールも不足しています。
今後の具体的施策に向けて①才能児理解のための研修等の促進、②学習の場の充実、③才能を見いだす際の方法に関する支援、④学校外の機関等へのアクセス支援、⑤実践に基づく実証研究の推進と結果の蓄積の5つを提言しています。
(2022年12月24日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)