少子化対策の一つとして、東京都が、健康な女性が卵子凍結をする費用への助成案を決定しました。妊娠・出産を望みつつ、健康な卵子が多い年代に環境が整わない女性を支える目的で、すでに社員を独自に支援している企業も出てきています。都は、新年度予算案に関連費用1億円を計上しています。助成制度の正式な開始に向けた需要調査という名目で、1人あたり最大30万円を年間200~300人程度に支払うことを想定しています。都民を対象とし、婚姻の有無は問いません。需要などをみて、2024年度以降の本格実施を検討するとしています。
女性は、30代後半から卵子の数の急減や質の低下などで妊娠しにくくなります。数が減ったり老化したりする前に卵子を採取して保存し、出産・育児の環境が整った時期に体外受精などで妊娠をめざすのが卵子凍結の目的です。これまで、がん患者などの治療に際して、将来の妊孕性温存のための医学的卵子凍結が実施されていますが、今回の東京都の卵子凍結はnon-medicalと呼ばれています。
卵子凍結は保険適用外のため、全額が自費負担となります。そのため採卵に50万円前後の費用がかかります。凍結卵子を用いた体外受精も保険適用外のため、妊娠までさらに費用がかかることになります。経済的な問題で諦める人もいるため、負担を軽減すれば、20代から卵子凍結を選択肢の一つとして考えられるとして、東京都は少子化対策としての意義を強調しています。健康な女性が将来のために卵子を凍結しておく動きは、欧米では広がっています。米国の学会が示す見解でも、女性の選択肢を増やし、生殖の自律性を高め、社会的平等を促進する可能性があるとしています。しかし、有効性と長期的な影響に関しては不確実性が残るとも指摘しています。年齢が高い人への卵子凍結は、妊娠への過剰な期待を与える可能性があります。
海外のこれまでのnon-medicalな卵子凍結のデータによれば、実際に妊娠のため使用された卵子は1割前後でしかないこと、卵子凍結をした全女性のうち約20%しか妊娠していないことを考えれば、全ての女性が妊娠できる訳ではないことを認識すべきです。企業が卵子凍結のための特別休暇を作ったり、費用の補助をすることの意義は大きいと思われますが、地方自治体が少子化対策の一つとして税金を使って実施することには疑問を投げかける人も多いのではないでしょうか。いずれにしても卵子凍結のメリット・デメリットを自ら判断した上で、実施するのであれば35歳未満で凍結することが望ましいと思われます。
(2023年3月2日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)