ウイルスを使ってがんを攻撃するウイルス療法の開発が加速しています。ウイルスの感染力と攻撃力を利用する方法で、皮膚や前立腺など様々ながんで臨床試験を進めています。ウイルス療法は、がん細胞だけで増殖するように遺伝子を改変した腫瘍溶解性ウイルスを使います。体内に投与すると、がん細胞で増殖してその細胞を破壊し、次のがん細胞に感染することを繰り返します。正常な細胞では増えないため、安全性が高いとみられています。
世界初の実用化は、2015年に皮膚がんの一種である悪性黒色腫向けに米国で承認されました。現在、様々ながんに対象を広げようと治験が進んでいます。特に注目を集めるのは、がん免疫細胞との併用です。ウイルスに感染したがん細胞は、死滅すると断片を周囲にばらまきます。これを目印にして免疫細胞は活発にがんを攻撃します。免疫の働きを高めるがん免疫薬と相性が良く、転移や再発を防ぐ相乗効果が期待されています。
がんウイルス療法は、手術、抗がん剤、放射線、免疫療法に次ぐ治療法として注目を浴びています。市場は拡大する見込みで、ウイルス療法の市場規模は2030年には2022年の約6倍の10.5億ドルに達する見通しです。普及への課題は生産体制の整備です。日本は生産面に課題があり、遺伝子を改変した細胞などを使う遺伝子治療で出遅れています。規制が壁になっている面もあります。
(2023年3月10日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)