東京都は、健康な女性が将来の妊娠に備えて予め卵子を凍結しておく、ノンメディカル卵子凍結に来年度から費用の助成を始めます。卵子は、細胞膜が薄く水分を多く含むため、凍結すると壊れやすいとされてきました。しかし2000年代からガラス化法と呼ばれる凍結技術が広がり、凍結した卵子の生存率は約60%から約95%に上がりました。卵子凍結は、将来の妊娠の選択肢を残すため、抗がん剤などの治療前のがん患者らを対象に行う医学的適応から始まり、2021年度から公的な助成金が支給されています。
米国生殖医学会が2012年にノンメディカル卵子凍結に関するガイドラインを発表して以降、加齢で卵巣機能が低下することに備えて、健康な女性が将来のために卵子凍結を希望する例が増えてきています。メディカル卵子凍結について日本産科婦人科学会は、2015年に基本的に推奨しないとの考えを示しています。日本生殖医学会も、推奨するものではないとしたうえで、ガイドラインや指針の中で、採卵時の年齢は40歳以上は推奨できない、36歳未満が望ましいとしています。
欧米でのノンメディカル卵子凍結における現在までの成果によれば、8割以上が35歳以上の女性であり、生涯にわたっての使用率は1割前後と低率です。また卵子1個あたりの妊娠率は4.5~12%と、凍結しておいた全ての女性が妊娠できるわけではありません。体外受精で1人の子を産むまでに必要な卵子は、35~37歳で平均13個、38~40歳で平均22個です。若い時の卵子を使えばもっと少なくて済む可能性はありますが、凍結しても確実に子どもが生まれる保証はありません。
仕事の継続、パートナーの不在などの影響もあり、妊娠を希望した時には高齢で、卵子が老化して妊娠しにくくなる社会性不妊が問題となっています。こうした女性に対し、東京都は少子化対策の一環として、卵子凍結を助成するとのことです。しかし、現時点では、ノンメディカルな卵子凍結は、緊急避難的に何年か妊娠を先延ばしにできる手段と考えておくべきです。一方で凍結した卵子を使う際、高齢出産になることは望ましくありません。使用率の低さや妊娠率の低さを考慮すると、出生数の増加につながるとは思えません。少子化対策と捉えるべきではなく、個人のライフプランの選択肢として考えるべきです。
(2023年3月15日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)