巣立たぬ若者の増加

成人したら親元を離れ自立した生活を営む慣習が、米国や英国で揺らいでいます。住居費や学費の高騰などを背景に、米英で若者の3分の1が親と同居するようになっています。この20年間で家賃価格は米国で1.7倍、英国で1.5倍になっています。雇用環境の厳しさも親同居を後押ししています。移民が増え人種が多様化していることも、若者の親同居を後押ししています。
国別に見ると、親同居の割合と出生率は逆相関します。イタリアや韓国など親同居率が高い国々は出生率が低く、他方北欧や米英は高くなっています。若者が早いうちに自立して暮らす社会の場合、カップル形成も早く、北欧諸国は手厚い家族支援施策と相まって、出生率は比較的高い水準を保っています。

日本の少子化は、パラサイト・シングル現象が一因です。2020年の国勢調査でみると、未婚者の場合40歳代の6割強、50歳代でも5割弱が親と同居して暮らしています。親元を離れず、結婚もしないまま中年世代になる人は多くなっています。
米国でも今後、高収入の大卒者とそれ以外で家族形成に差が出てくるかもしれません。収入や学歴が低く、社会的に弱い立場の若者の場合、長期間の親同居を余儀なくされ、新たな家族を築こうとする意識も弱まる懸念があります。ピュー・リサーチ・センターの世論調査では、高所得層は46%が若者の親同居を良くないと思っている一方、低所得層は28%にとどまっています。巣立たぬ若者という現象は、所得格差の拡大や雇用環境の厳しさなど先進国で広がる社会の分断を映し出しています。

(2023年5月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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