2022年の合計特殊出生率が過去最低となり、日本の少子化は想定を超えるスピードで進んでいます。2023年に入っても出生数の減少は続いており反転の兆しはみえません。年間出生数が200万人を超え、第2次ベビーブームと言われた1970年代前半生まれの団塊ジュニア世代の子どもが、2030年頃にかけて出産適齢期を迎えます。出生数がまだ100万人を超えていた2000年代生まれが、30代の間に出生減に歯止めをかけなければ、日本は出生率反転のきっかけを失ってしまいます。
第2次ベビーブームに生まれた団塊ジュニア世代は、出産適齢期を超えました。期待された第3次ベビーブームは訪れず、15~49歳の女性はこの20年で500万人ほど減りました。この世代は大学卒業前後にバブルが崩壊し、高い失業率の下で就職氷河期に直面しました。2005年の出生率が過去最低だったのは、経済情勢が出産適齢期にあった世代の人生プランに影響を与えた結果と言えます。
政府は、2003年に少子化社会対策基本法を施行するなど断片的に少子化抑制を試みたものの、育児支援が中心でした。賃上げなども若年層の将来不安を解消するには不十分で、社会保障負担の増大や予算の高齢者偏重は是正されませんでした。現在の少子化対策の議論も児童手当など給付の拡充が中心になっています。長時間労働を是正し、男女がともにフルタイムで柔軟に働けるよう促す視点が大切です。
国立社会保障・人口問題研究所の2021年調査によれば、未婚者の平均希望子ども数は男性で1.82人、女性も1.79人とともに過去最低となり、夫婦の理想子ども数も2.25人と過去最低でした。社会保障費も増え、子どもを産み育てるのは贅沢になったとの声さえあります。若者・子育て世代の所得を伸ばさない限り、少子化を反転させることはできません。
子どもを持とうとする意欲は低しています。未婚女性が希望する子どもの数は初めて2人を割りました。結婚と出産を一体に考える社会通念が薄れ、結婚したら子どもを持つべきと考える未婚者は男女とも減っています。特に女性は2015年の67%から37%に減っています。注目すべきは希望子ども数と現実の出生率の乖離です。賃上げの弱さ、奨学金返済、社会保障制度の持続性への不安など、希望を阻む背景が多くあります。1990年代に生まれた世代が子どもを持ちたい希望を叶えられるかどうかで、わが国の将来も違ってきます。
(2023年6月3日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)