熊本大学の研究グループは、膵がんの転移や再発のもとになるがん幹細胞を発見しました。膵がんをつくるがん細胞の親玉のような役割をしており、試験管内での実験で、薬によってこの細胞の増殖を抑えられることを確認しています。膵がんは治療が難しいことが知られており、治療法開発のカギになるかもしれません。
ヒト由来の膵がんの組織に含まれるがん細胞を調べ、転移のしやすさやストレス耐性にかかわるとされる性質をもつ細胞に注目しました。この細胞が表面に、ROR1というたんぱく質を多く持つことを見い出しました。マウスを使った実験で、ROR1が多い細胞は、がん組織を効率的につくり出せることや、ROR1を抑える遺伝子操作をすると転移しづらくなることを確認しました。
がん細胞がROR1をつくるのに必要なたんぱく質を邪魔する薬を、試験管の中の膵がん組織に加えると、細胞の塊が成長するのを抑制しました。この薬は膵がんの治療薬として開発が進んでいるものの一つで、薬ががんの増殖を抑えるメカニズムの一端が明らかになりました。
(2023年7月5日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)