国立社会保障・人口問題研究所が、1997年に公表した将来推計人口の中位推計によれば、2022年の合計特殊出生率は1.60、年間の出生数はほぼ100万人でした。現実の2022年の出生率は1.26と過去最低となり、出生数は統計を取り始めた1899年以来、初めて80万人を割りました。出生数が85.8万人、出生率が1.37としていた1997年の低位推計の方が実態に近くなっています。
低位より悲観的でなく、高位ほど楽観的でない位置づけの中位推計は、年金制度改正などの重要な政策決定の土台となってきています。これまで多くの中位推計は、出生率が底を打って回復するなど実際より甘い見立てをしていました。緩い推計は政策決定を惑わすことになります。
2024年夏にも公表される年金の財政検証は、今回の将来推計人口の中位推計などに基づくものです。今の日本の超少子化や社会保障の危機は、最悪の想定から目を背けて備えを緩めてきた結果と言えます。もはやそれを繰り返している余裕はありません。
(2023年7月5日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)