社会保険料は第2の税か?

社会保険料は、近年第2の税のように扱われ、伸び続ける社会保障費を賄う財源となってきています。税に比べ負担を感じにくく、増税論議を避けたい政治家には、都合の良い財布に映ります。いかに税でなく社会保険料の徴収を増やしてきたかは、国民所得に占める税金や社会保険料の負担割合を指す国民負担率をみると一目瞭然です。税の負担率は、消費税導入後もこの30年間3割以下に、とどまるのに社会保険の負担率は1割から2割弱まで伸びています。
病気や老齢、介護などのリスクは、所得の多寡で変わりません。しかし、実際には社会保険で所得の多い現役世代が、所得の少ない高齢者を支える仕組みが導入されています。自分たちのリスクの分担にとどまらず、実質的な再分配機能が組み込まれてきました。現役世代で構成する健康保険の保険料の4割は、75歳以上が加入する高齢者医療への拠出金となっています。
所得の再分配なら、恩恵を受け入れる以外からも幅広く徴収する税の方がふさわしいと考えられます。政治や行政が増税を避けてきた結果、税と社会保険の役割分担を歪めてきました。基礎年金は、個人の所得にかかる保険料で財源を賄っています。所得がなければ負担もありませんが、給付は受けられます。再分配機能を備えた実質的な社会保障目的税の位置づけです。
首相は、国民に実質的に追加負担を生じさせないことを目指すと繰り返していますが、問題は負担増ではなく、受益と負担の関係の納得感です。政治が説明責任から逃れるばかりでは、根本的な解決の道は遠くなるばかりです。加速する人口減は社会保障制度全体の改革を迫っています。対処療法的な対応では、この危機を乗り越えることはできません。

(2023年7月3日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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