わが国の人口当たりの薬剤師数は、OECD加盟国の平均の2倍を上回っており、すでに国際的に突出しています。その主因は、薬学的専門知識が不要で、海外であれば調剤補助員などが行っている薬の取り揃えなどの業務を、薬剤師が行う慣行があることです。専門職である薬剤師を専門性が生かされない業務に長時間従事させることは、効率的とは言えません。
薬学的専門知識が不要な業務を薬剤師以外の従業員にタスクシフトしたり自動化されると、薬剤師の本来業務を充実させたとしても、2045年の薬剤師の需要は30万人にとどまると推計されます。薬剤師国家試験の合格者数が足元の水準から横這いで推移した場合、2045年に薬剤師は11.1万人余剰になる計算です。この余剰をなくすために、需要が一致するような毎年の薬剤師国家試験合格者数を逆算すると、現在の水準の約半分である4,700人です。合格基準の厳格化より、入り口となる薬学部の定員を半減した方が人的資本の面からみて望ましいと思われます。
文部科学省は薬学部の新設と定員増を抑制する方針を示していますが、これだけでは定員が増えないというだけで、半減を目指すには不十分です。薬学部は入学希望者に対して定員が過大なため、一部の大学では入学試験で十分な学力を有する学生を選抜できていないと指摘されています。結果として薬剤師国家試験の合格率は約7割と、医師国家試験の約9割と比べても、低いことにつながっています。
薬学部定員の削減は、薬学部における臨床教育の充実にも有効です。薬学部教育において臨床よりも研究が重視されてきたのを是正するため、2006年度入学生から、薬学部は4年制から6年制に変更され、5~6年次に臨床に関する教育を集中的に行うカリキュラムになっています。受け入れ先の医療機関や薬局に余裕がないこともあり、薬学部の実務実習の期間は22週間と、72週間の臨床実習を行う医学部と比べて3分の1にも満たない状況です。薬学部定員が半分程度になれば、学生1人当たりの実務実習の期間を2倍に増やすこともできます。
(Wedge July 2023)
(吉村 やすのり)