出自を知る権利ーⅡ

今や世界的に子が提供者を捜す動きがみられるようになっている。子どもにとっては、知る権利と同様に知らされない権利も必要かもしれない。

しかしながら、今や個人の遺伝情報を簡便に検索できる時代になっており、子どもが親子関係を疑問に思った時、自分でDNA鑑定を行うかもしれない。精子や卵子の提供を受けて子をもうけたクライエント夫婦が、実子という戸籍上の記載を隠れみのとして子どもに真実を告げないで済む時代ではなくなっている。夫婦で子どもを持ちたいと真摯に話し合い、配偶子の提供による生殖補助医療を受けることを決断し、子どもを産み愛情を込めて育てているとするならば、真実告知をすべきであるとの考えは理にかなっている。

現実は理想とはかけ離れたものである。子どもに出自を知る権利を保障するためには、クライエント夫婦による真実告知が前提となる。両親による真実告知がなければ、生まれた子どもにとって出自を知ることはできにくい状況となる。スウェーデンや米国でのAID症例における真実告知は約半数でなされているにすぎない。またわが国の特別養子制度における真実告知も1/4にすぎない。これらのデータはともに、いかに両親にとって子どもへの真実告知が難しいかを示している。

しかしながら、クライエント夫婦の考え方にも変化がみられている。2000年にAID児をもつ父親に対するアンケート結果では、ほぼ全員が子供にAID児であることを告知しないと答えていたが、2012年の意識調査では告知するとするクライエント夫婦が20%前後にまで増加してきている。クライエント夫婦もAIDを実施するに際して、生まれてくる子どもに出自を知る権利があることを認識するようになってきていることを示すデータとして注目に値する。今後は子どもに対して真実告知をすることを前提にAIDを実施しなければならないようになるであろう。

 

(吉村やすのり)

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