医師不足の実態

2020年末時点で医療施設で働く医師数は32万3,700人で、10年前から約4万人増えています。人口10万人あたりの医師数は、約40年前の2倍になっています。OECDの加盟国とほぼ同程度までに増えています。それでも医師不足が叫ばれているのは、勤務地が偏っているからです。都市部と入院ベッドが多い西日本に医師が集まり、最多の徳島県と最少の埼玉県では2倍近い差があります。

国は、医学部定員で医師数をコントロールしています。地方の医師を増やそうと、1973年に全都道府県に医学部を置く構想を閣議決定して定員を増やしました。競争の激化を恐れる日本医師会の声に押され、1982年以降は抑制に転じました。地域差が深刻となり、2006年に政府は不足県の医学部に対し、同じ県内で一定期間働けば、奨学金の返還を免除する地域枠を拡大しました。一定の効果はありました。偏りの是正には至っていません。

ここ10年では、東京23区内で美容外科、皮膚科、精神科の診療所が急増しています。これらの科は、入院患者や急患に対応する勤務医や在宅患者を担当する訪問診療医に比べ、労働時間が短く、価格を自由に決められる自由診療を手掛ければ、利益を上げることができます。3K職場と考えられている外科や産婦人科の減少は止まりません。産婦人科内においても、自由度の少ない周産期医療に従事する医師の減少が深刻です。
医師免許があれば好きな場所に開業でき、揚げる診療科も原則自由です。これが偏りを生む主因になっています。医師養成や保険診療には税金を投入しています。職業の選択の自由だとしても、一定の制限を設けない限り、偏りはなかなか解消しません。

(2023年9月5日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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