先進国における交通渋滞

インフラ老朽化により、先進国で交通渋滞問題が再浮上しています。急ピッチでインフラ開発を進めて中心部の渋滞緩和を目指している新興国との明暗が分かれています。インフラ修繕や改修への予算が不足する中、米国などでは、中心部に車で乗り入れる際に課金する渋滞税導入の議論も盛んになってきています。
交通渋滞と言えば、ジャカルタやニューデリーなど新興国の主要都市で発生していました。急速な経済成長に伴って、自動車や二輪車の利用が増加し、脆弱な交通インフラが吸収しきれない量の車が道にあふれました。公共交通が脆弱なこともあり、都市の機能不全が顕在化しました。しかし、新興国の改善ペースは速く、主要都市の中心部にインフラ開発予算を集中的に投下し、都市鉄道などの開業が相次いでいます。ハノイでは、市民の足である二輪車の中心部乗り入れを禁止する案を検討しています。エジプトやインドネシアは、首都移転という荒業を採用しています。
新興国が中心部の渋滞を一定程度緩和させたことで、先進国の渋滞対策の遅れがクローズアップされています。先進国では急速なインフラ改善の見込みが薄い中、渋滞対策として期待されているのが渋滞税です。時間帯によって料金を変えて交通量を調整するロードプライシングも有効な手段とされています。シンガポールがいち早く中心部で導入し効果を挙げています。先進国は渋滞税導入だけでなく、一部新興国が取り入れているような大胆な規制の導入も必要になりそうです。

 

先進国で渋滞対策が欠かせないのは、渋滞を放置すれば排ガスが充満し、環境破壊につながります。Our World in Dataによれば、米国の1人あたりの温暖化ガス排出量は、平均17トン超に達しています。世界平均気温の史上最高記録更新が相次ぐ中、熱波や豪雨などの異常気象による被害が拡大しています。渋滞問題は気候変動を一層助長しかねません。

(2023年8月15日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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