無痛分娩の利用

厚生労働省が2020年に初めて実施した調査によれば、全分娩に占める無痛分娩の割合は8.6%でした。日本産婦人科医会の2016年度調査の6.1%から増えています。全国の病院や診療所の26%にあたる約500施設が実施しています。費用は通常の出産に比べて10万~15万円ほど多くかかります。
無痛分娩では背中から入れた管から脊髄周辺に麻酔を入れるのが一般的です。痛みが軽くなり、通常の分娩よりも体力や気力を温存しやすいとされています。無痛分娩には、計画無痛分娩と自然無痛分娩があります。計画では、出産予定日近くに薬で陣痛を起こします。予定日より前に陣痛が来た場合には、人手を準備できず無痛分娩にできないこともあります。自然では、薬を使わず陣痛が自然に来るのを待ちます。いつでも対応できる体制がいるため、手掛ける病院が限られます。

無痛分娩を選ぶ時にハードルになったこととしては、35%が麻酔への心配、28%が医療事故などへの不安を挙げています。過去に無痛分娩に伴う死亡などの重大事故が起き、社会的な注目度が高まったことが背景にあるとみられます。実際の統計をみると、妊婦の死亡率は自然分娩と同等で、特にリスクがあるわけではありません。
体に入れた管が血管や硬膜の内側に誤って入った際に、麻酔薬が多量に投与されると、痙攣や呼吸停止のリスクがあります。そこで少量ずつ麻酔薬を入れる投与法が一般的になっています。痙攣などの重篤な合併症は、1万人に数人の頻度で起こります。麻酔科医が関わる病院ならこうした合併症に対応しやすいのですが、無痛分娩で重要な役割を担う麻酔科医の不足が懸念されています。医療機関が急変に備えた体制をどれだけ取れているかが、安全を確保する上で大切です。

(2023年9月2日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。