人口減下での診療所の増加

人口減によって患者は減り始めています。医療資源の偏在は医療費の無駄を招きます。問題を象徴するのが、余るベッドと足りない医師です。急な病気や怪我の入院患者を治療する急性期の病床は、2022年時点で全国に69.1万床あります。現状の見通しでは、2025年に68.4万床とほぼ変わりません。厚生労働省が2016年度末時点で推計した2025年の必要数53.1万床でした。2割強の15万床ほどが過剰になる恐れがあります。
OECDのデータによれば、2020年時点の人口1,000人あたりの医師数は、日本が2.6人で、米国の2.6人、英国の3.0人、フランスの3.2人とほぼ同水準にあります。これを病床100床あたりで見ると、日本は20.5人で、125.1人いる英国の6分の1です。病院1施設あたりでは39.7人で、ドイツの3分の1しかいません。日本は、急性期医療の入院日数が欧米の2~3倍と長く、多くの病床に患者が長くとどまり、少数の医師が診療に追われるという構図にあります。
他の先進国並みにいる医師が大病院で足りないのは、小さな病院の数が多いうえに、多数の勤務医が独立し診療所を開業しているためです。診療所は2022年に10万5,182カ所と、2012年から5%増えています。病院の勤務医が自由に独立開業することで、集約すべき人材が拡散しています。診療所の医師の一部が病院に勤めれば、勤務医の不足はかなり解消されます。
診療所にかかる患者は減少傾向にあります。外来の患者数を示す受診延べ日数は2022年度に11.9億日でした。コロナ禍での受診控えが響いた2020年度の10.9億日からは増えましたが、2019年度の12.2億日からは減っています。人口減でこれからも減る可能性が高いと思われます。超少子高齢化社会にあって、医療費の増加は続きます。急性期病床を再編・統合し、散らばった医療資源を集約し、医師や医療施設の偏在を改善することが急務です。

 

(2023年10月26日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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