2012年の認知症有病率調査に基づく現在の認知症者の推計値は600万人以上、認知症の予備軍を高頻度に含む軽度認知障害(MCI)は、500万人以上にのぼっています。さらに2025年には認知症者は、約700万人に達すると推計されています。また65歳以上の者のいる世帯のうち、単独世帯の割合は約3割に達し、夫婦のみの高齢者世帯で、MCIや認知症を発症している人が急増しています。
こうした脆弱な世帯では、軽度の身体機能や認知機能の低下が、住み慣れた自宅での生活を危うくします。一方、軽度の身体機能や認知機能の低下ならば、的確な人的サービスや簡単なテクノロジーの支援を受けることで、当事者の希望に沿ってそれまでの生活を維持できる可能性も十分にあります。
日本は世界有数の長寿国です。私たちは人類が経験したことのない超高齢社会に暮らしています。当事者の意向に沿ったテクノロジーと専門職による生活支援、進行の過程を変えるような治療薬による個別科医療、当事者の意思決定支援などが必要になります。これから世界が直面する高齢化と認知症の問題に、日本発の英知を結集して真っ向から備え、世界の人々に貢献したいものです。
(2023年11月2日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)