中分子薬の技術開発

薬は、分子の大きさで働き方が変わります。最近、注目が集まっているのが中分子薬です。副作用が少なく、製造コストも安い薬につながる可能性があるほか、これまで治療法がなかった病気に対する新薬の開発も期待されています。中分子薬は、高分子と低分子の中間の大きさで、アミノ酸が連なったペプチドや、DNAやRNAといった遺伝物質の核酸があります。中分子の薬は、製造技術の進歩で広まりつつあります。

中分子のうちペプチドは、体の中に入ると分解されやすく、薬としての実用化が困難とされてきました。ペプチドは、アミノ酸が2~50個つながったもので、さらに大きくなるとたんぱく質になります。生体内では、まずDNAからたんぱく質の設計図となる遺伝物質であるmRNAが作られます。mRNAに、別の物質であるtRNAが20種類のアミノ酸を運び、設計図に基づいてアミノ酸をつなげていきペプチドとなります。より多種類のペプチドを合成するために、輪(環状)になるように設計を工夫し、分解されにくくした特殊環状ペプチドが作られています。この手法により、一度に1兆種類の特殊環状ペプチドが合成でき、この中から、狙ったたんぱく質と結合しやすいものを数種類に絞り、医薬品候補を選んでいきます。

病気の原因遺伝子を制御する核酸を使った中分子医薬である核酸医薬も実用化が進んでいます。核酸を使えば、国内で患者がたった一人しかいないような超希少な疾患を対象にした治療薬を短時間で開発できます。
中分子医薬を開発する動きは世界的に活発化しています。特許庁の調査によれば、2020年5月末時点で、120品目のペプチド医薬が実用化されています。核酸医薬は、1998年に米国で初めて承認されて以降、実用化されたのは2020年8月末時点で12品目です。いずれも欧米を中心に臨床試験が盛んに行われています。

(2023年11月5日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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