東京電力福島第一原子力発電所事故から12年半が経過しましたが、放射線による健康影響への誤解がなくなりません。原子放射線に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書によれば、①福島県民への将来的な健康影響はみられそうにない、②妊娠・胎児への健康影響はみられそうにないと結論づけています。
環境省の原発事故の被災地で将来生まれてくる子や孫などへの放射線による健康影響を尋ねた全国調査結果によれば、46.8%の人が健康影響が起こる可能性は高いと答えています。誤解する人の割合は2021年の41.2%、2022年の40.4%から逆に増える結果となっています。
健康影響に関する情報の発信元についても、国連科学委だと44.5%ですが、日本産科婦人科学会だと34.8%まで大きく改善しています。情報の内容はほぼ同じでも、発信元がなじみのある団体への信頼が高いことが分かります。調査前の情報提供で誤解率は大きく変化します。表現を変えるだけで誤解率に大きな違いが出ます。
福島第一原発では、今年8月に、処理水の海洋放出が始まりました。大半の放射性物質は取り除いていますが、トリチウムが残ります。しかし、トリチウムの放射線は弱く、国の基準以下に薄めれば、人や環境への影響がありません。UNSCEARの報告内容であれば分かってもらえるはずだという姿勢は問題です。誤解を解こうと力を入れると胡散臭く感じる人もいるし、政府の取り組みというだけで疑ってかかる人も少なくありません。地域や信頼されている人に情報発信してもらうことが大切です。
(2023年11月24日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)