2022年に労災による死傷者数は、13万2,355人で過去20年で最多、発生頻度も約30年ぶりの高水準となっています。熟練労働者不足が事故多発につながっています。厚生労働省の能力開発基本調査によれば、技能継承が問題とした企業は、製造業で6割に達し、全産業平均の4割を上回っています。
労災増加の背景には、労働者の高齢化もあります。総務省労働力調査によれば、就業者に占める60歳以上の比率は、2022年時点で22%に達しています。労災発生に占める年齢別割合でも20%を超え、それぞれ過去最高を更新しています。なかでも、建設業界で高水準の労災発生が続いています。労働災害の発生件数が高水準で推移する中、企業が職場の安全環境改善に本格的に取り組み始めています。働き手の安全配慮は企業価値向上に欠かせません。
日本の労働災害による死傷者数は、過去20年間で最大とじわり増えていますが、世界でみると労働者10万人あたりの死亡者発生率は、日本が1.54人と韓国や米国などに比べ低水準です。製造現場でヒヤリハットの事例を共有し、リスク発生の芽をつむ取り組みが先進的に進んできたためです。労働災害への対応は、近年企業による人権の取り組みの一環として捉えられるようになり、一段と重要性が増しています。
(2023年11月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)