労働条件を示す労働基準法施行規則などが改定され、2024年4月からは就職時点で転勤の有無や異動する可能性のある勤務地の明示が会社に課せられます。そもそも辞令1つで転勤に応じていたのは、終身雇用制度が前提にあります。将来にわたる雇用と引き換えに、転居に伴う不便を受忍してきたと言えます。日本型雇用が見直され、雇用の流動性が高まれば、転勤辞令に嫌々従う理由もありません。条件明示ルールの改定は、企業が転勤のあり方を再考する好機です。
リクルートワークス研究所の推計によれば、2022年の転勤者は全国で71万人で、このうち単身赴任が50万人を占めています。夫が外で働き、妻が家庭を守る専業主婦世帯は年々減り、共働き世帯が主流です。パートナーの仕事や子どもの教育などの問題があり、家族帯同の転勤は難しくなってきています。相応の配慮が企業に求められます。
マイナビの2024年卒大学生就職意識調査によれば、就職したくない会社として、転勤の多い会社が29.6%を占めています。過去20年で最多です。転勤を嫌う傾向は学生に限りません。転勤が転職のきっかけになるという調査もあります。人手不足の折、人材を確保するためにも企業は見直しを迫られています。
リクルートワークス研究所が2020年に行った5カ国の国際比較調査によれば、諸外国も転勤はありますが、その多くは本人の同意に基づくものです。同意がなくても業務命令で転勤させる日本は、改善の余地があります。新型コロナ禍でリモートワークが広がり、遠隔地でできる業務が増えました。まずは不要な転勤を削減することです。
(2023年11月27日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)