生体認証の活用

身体的な特徴から個人を特定する生体認証の活用が広がっています。指紋を使ったスマートフォンのロック解除、顔認証による入退室管理などが代表例です。利便性向上に加え、人手不足への対応も導入のきっかけとなっています。富士キメラ総研によれば、生体認証の関連機器やソフトウェアを含めた国内市場規模は、2021年に181億円でしたが、2027年に1.4倍の247億円に拡大する見通しです。
生体認証では、指紋や顔のほか、指や手のひらの静脈、目の瞳孔の周りにある虹彩などが使われます。事前に生体情報をシステムに登録しておき、カメラやセンサーで読み取った情報と照合して本人を特定します。他人を本人と誤認してしまう確率は、顔の場合は5%ですが、指紋は1万分の1、虹彩は1億分の1と高い精度を誇ります。一方、マスクの着用や化粧、汚れなどが原因で情報を正しく読み取れず、本人を認証できない確率は指紋や静脈で1%、顔で5%、虹彩で10%程度です。
カードなどの証明書を持ち歩く手間が省け、パスワードをメモしたり覚えたりする必要もありません。懸念は情報の漏えいや他人によるなりすましです。生体認証で使う情報が漏えいした場合、指紋や顔、静脈などの情報を変更することは簡単ではありません。
日立製作所の調査によれば、本人確認で生じる問題を生体認証で解決したいかという質問に対し、65.3%がそう思うと回答しています。様々なサービスと組み合わせることで、生活の利便性をさらに高められる可能性もあります。買い物の決済やポイントの受け取りについて、指の静脈などを使った生体認証で一括処理するサービスも始まっています。
情報管理のリスクを減らすための取り組みも進んでいます。顔と虹彩を組み合わせた生体認証システムが開発され、誤認証率を100億分の1以下に抑えることもできます。暗号化した生体情報が漏れても復元できない技術を開発、安全性を高めようとしています。技術的には相当成熟してきています。個人情報の厳格な管理やデータ利用時の倫理上の問題などを改善し、利用者の信頼性を高めることが普及のカギを握っています。

(2023年10月19日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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