クオータ制の導入の必要性

政治の世界では議員の、企業では役員の数などで、女性の数が一定の割合になるようにする仕組みをクオータ制と呼びます。数値の達成に強制力をもたせるのが特徴で、1970年代にノルウェーが初めて導入しました。EUは、2022年11月に域内の上場企業に一定比率の女性を取締役に登用するよう事実上義務付ける新法を採択しました。2026年6月末までに非業務執行取締役の40%、または全取締役の33%を女性にする必要があります。
日本政府は、2023年6月に公表した女性版骨太の方針で、東証プライム市場の上場企業に対し、2025年を目途に女性役員を1人以上、2030年までに女性役員比率を30%以上とする数値目標を掲げています。強制力はありませんが、企業の対応が見込まれています。
OECDの調査によれば、日本の企業の女性役員比率は15.5%で、欧米など主要国の半分に満たない状況です。働く人に占める女性の割合は他国とほぼ同水準ですから、女性の役員登用が進んでいません。列国議会同盟によれば、日本の女性議員の割合の10.3%は、9月時点で185カ国・地域中164位です。世界経済フォーラムが発表した2023年のジェンダーギャップ指数でも、日本は146カ国中125位と低位にとどまっています。
129カ国・地域が何らかのクオータ制を導入済みです。インドは、9月に下院や州議会の議席の3分の1を女性に割り当てる法案を可決しました。EUでは、フランスがパリテ法で政党に男女同数の候補者擁立を義務付け、スペインも企業役員や官僚を男女とも4割以上とする法案を閣議決定するなど、政治や経済の分野で導入が進んでいます。かつては男女の人数差が大きかった国がクオータ制をきっかけに変わる傾向があります。
逆差別、能力不足の人が選ばれる、などの批判の声はあります。しかし、男女の不均衡の存在や構造的要因を知らないから出る反応とも言えます。クオータ制は、不平等の是正を加速させるツールと言えます。不平等を1つずつ取り除くのには時間がかかるので、先に枠を設けて少数派を増やし、障害を撤廃することが必要です。男女の人数バランスを整える方法として海外の実績はあるので、日本での動向が注目されます。

(2023年10月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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