2024年7月、新しいお札の発行が始まります。日銀によれば、新紙幣は3月末までに渋沢栄一が描かれた1万円札、津田梅子の5千円札、北里柴三郎の千円札の合計で、45.3億枚を準備する計画です。2004年に現行の紙幣を発行した際には、50億枚程度を用意しました。
デジタル技術の進展と矛盾するように紙幣の流通量は増えてきました。20年前は65兆円(65億枚)程度だった1万円札の流通量は、2023年11月に7割増の112兆円分(112億円)まで膨らんでいます。経済規模の拡大に伴い、流量量が一定程度増えるのは自然ですが、この間名目GDPは7%しか伸びていません。ここまで拡大する背景には、日本特有の事情があります。
日本は現金大国です。国際決済銀行によれば、2021年の名目GDP比の通貨流通量は、日本が23.1%と突出しています。ユーロ圏は12.8%、米国は9.2%と差が開いています。日本のキャッシュレス決済比率は、経済産業省の試算で2022年時点で36%程度です。10年前の15%の倍以上と増えていますが、5割前後の海外主要国と比べると遅れが目立っています。
日本はATMの台数が多く、現金の利便性が保たれていることや、偽札が少なく通貨への信頼度が高いことなども挙げられます。治安が良いため、現金を持ち歩くリスクも意識されにくく、その結果、政府が目指す将来のキャッシュレス決済比率の8割には遠いというのが現状です。
(2024年1月5日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)