iPS細胞から受精卵の作製

日本では、胚は人の生命の萌芽と位置付けられ、原則として研究目的でつくることは認められていません。しかし、人工の卵子、精子で胚をつくり研究に使うことで、ヒトの発生の仕組みや不妊の原因の解明などが可能になります。内閣府の生命倫理専門調査会は、ヒトのiPS細胞などからつくった卵子、精子で受精卵をつくることについて、解禁に向けた議論に入ります。ヒトの卵子や精子を人工的につくれる段階にはまだ至っていませんが、研究の進展を踏まえて、考え方を整理することにしています。
このような胚の作製は、最終的な廃棄を前提に生命の萌芽を大量につくることや、男性どうしや単一の親からなど、自然には生まれ得ない子どもをつくることにつながる恐れがあります。国の指針は、できた胚を生殖医療に使うことは前提としていません。
ヒトの胚は子宮に戻せば胎児に成長します。政府は、2004年にヒト胚を特に尊重されるべき存在とし、研究目的ではつくらないことを原則とする基本的考え方を示しています。しかし、研究による生命科学や医学の恩恵も期待できることから、胚をつくる必要性を科学的に説明できる場合だけ、例外として胚の作製を認めうるとしています。
文部科学省は、2010年に関連指針を整備し、iPS細胞などから人工的にヒトの卵子や精子をつくることは容認しましたが、それを用いて胚をつくることは禁止しました。その後、京都大学の斎藤通紀教授らのチームが、2011年に精子、翌2012年に卵子をマウスのiPS細胞からつくり、次世代も生まれたと発表しました。2015年以降にはヒトでも研究が進み、国内外から、ヒトの卵子や精子の前段階のものができたと報告されています。

(2024年1月11日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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