妊産婦死亡リスク

2010年から報告された妊産婦死583例のうち、事例検討が終了した558例についての解析結果が報告されています。妊産婦死亡率は年齢の上昇とともに増加し、40歳以降では、20代前半と比べると、死亡率が5倍に増加します。この13年間の妊産婦死亡原因で最も多かった疾患は、産科危機的出血で18%を占めています。次いで頭蓋骨内出血・梗塞が14%、心肺虚脱型羊水塞栓症が11%でした。
近年、産科危機的出血による死亡数は減少傾向でありましたが、2020年度以降は再び増加傾向にあります。産科出血への対応について、急変の感知、感知後の初期対応、院内・地域のシステムについて今一度見直すことが望まれます。
急性発症する事例について、其の発症タイミングは、原因疾患ごとに異なります。妊娠初期には、異所性妊娠や悪阻による脱水に関連した肺血栓塞栓症が目立ちます。妊娠中期・末期には、妊娠高血圧症候群に関連した頭蓋内出血、循環血液量の増加の影響を受けた心大血管疾患、分娩期には胎盤早期剥離や羊水塞栓症などの凝固障害、妊娠高血圧症候群に関連した多臓器不全などが多くなっています。
胎盤娩出後の分娩直後の分娩第4期においては、産科危機的出血に関連した出血性ショックが発生しています。帝王切開中にも癒着胎盤、子宮型羊水塞栓症といった出血性ショックの発症や、産科麻酔などに関連した合併症などが発生しています。産褥期には、肺血栓塞栓症のみでなく、心大血管疾患も多く発生しています。それらの発症場所は、総合病院が1/3、産科病院・有床診療所が1/3、自宅を含む施設外が1/3と、いつでもどこでも妊産婦死亡に関連する初発症状は発生しうるという認識が必要です。

 

(日本産婦人科医会報 令和5年12月1日)
(吉村 やすのり)

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