東南アジアの高齢化

東南アジアに老いが迫っています。生産年齢人口が全体に占める割合は、2024年に低下に転じる見通しです。今後、高度成長期以降の日本のような高齢化の波が押し寄せます。若さで回ってきた国々だけに備えは乏しく、一般的な定年が早いうえに公的年金のカバー率は4分の1ほどにとどまっています。OECDの2021年のデータによると、年金カバー率は、インドネシアやベトナムで2割台にとどまっています。比較的高いシンガポールでも5割台で、OECD平均の87%より明らかに低率です。年を取っても働くという意識も薄く、タイやマレーシアの一般的な定年は55歳です。
国連の推計によれば、東南アジア11カ国の生産年齢人口比率は、2023年の68%で頭打ちとなり、下り坂になります。タイは2013年、ベトナムは2014年に既にピークを迎えました。2030年には、世界4位の2億7,000万人の人口を抱えるインドネシアが峠を越します。豊富な労働力が経済を押し上げる人口ボーナス期の終幕です。65歳以上の割合は、2019年に高齢化の節目の7%を超えました。2043年には高齢社会の区分に入る14%に達します。24年間での移行は、かつての日本(1970~1994年)と同じ急速なペースです。
定年を官民で段階的に引き上げてきた日本でさえ、高齢化の重荷に苦しんでいます。生産年齢人口比率がピークの1992年に、GDP比で11%だった政府の社会保障支出は、その後30年間で25%まで膨らみました。東南アジア各国のこの比率はまだ1桁の水準です。これからどんどん増える高齢者を支えるために社会保障を厚くするなら、財源の確保をはじめ難しい議論を迫られることになります。
東南アジアは、成長の下り坂に入りながら迫り来る老いに備えるという難題に向き合っています。シニア層が安心して暮らせる安全網の構築や、希望に応じて働き続けられる環境整備が課題になります。

 

(2024年2月11日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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