新しいがん免疫療法の開発

がんの治療手段は、長く手術と放射線、抗がん剤の3種類でした。2010年代に第4の治療法として免疫薬が登場しました。オプジーボに代表される免疫薬は、抗がん剤などが効かない患者にも効果が出る革新的な治療法として、肺がんや胃がん向けに普及が進んでいます。

 

がんは、免疫を担うT細胞が持つ分子と結合し、その攻撃を逃れます。免疫薬は結合を断ち切り、がんへの攻撃を促します。しかし、病気が進むとがん細胞は自らの目印になるたんぱく質を出さなくなり、免疫細胞の目を逃れるようになります。この状態で免疫薬を投与しても効果が出なくなり、免疫薬が効く患者は全体の10~30%にとどまっています。
体の中で眠る免疫細胞を覚醒させ、従来の免疫薬では治療が難しい膵臓がんや脳腫瘍を攻撃させる新技術が開発されています。酵素をがん細胞の特定の遺伝子に作用させ、がんの目印となるたんぱく質を作らせ、T細胞ががんを認識できるようにさせ、既存の免疫薬の効果を高められるようにしています。免疫細胞そのものの力を引き出す試みもされています。
新技術の実用化につなげられれば、多くの患者を救える可能性があります。しかし、免疫細胞の働きを活性化させるため、免疫が働き過ぎることによる副作用が出る可能性があります。従来の免疫薬も皮膚や消化管、肝臓などで副作用が報告されています。治療効果とのバランスを見極めながら、治療薬の開発を進めていく必要があります。

(2024年5月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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