研究不正を減らすためには

 10年前に理化学研究所で起きたSTAP細胞問題が、日本の科学史を汚す騒動に発展しました。研究を主導した若手研究者は懲戒解雇相当の処分を受け、指導役だった著名な研究者は自殺してしまいました。当時の理研理事長は辞任に追い込まれました。この騒動を契機に、国は大学や研究機関に研究倫理の教育や不正防止などの対策を求めるようになりました。文部科学省は、2014年に研究不正に対する指針を改訂し、データの捏造、改ざん、盗用を悪質な特定不正行為と位置づけ、件数を公表するようになりました。

 文部科学省のまとめによれば、明らかになった特定不正行為は年10件前後で横ばいが続いています。お茶の水女子大学名誉教授の白楽ロックビル氏の資料によれば、2010年代前半に10件前後だった捏造、改ざんや盗用は、2014年に20件を超え、2021年に45件に達しています。2022年以降も研究不正の件数は高止まりしています。研究不正に悩むのは日本だけではありません。リトラクション・ウォッチで主に1960年代以降に撤回された約6万本の論文について理由を分析すると、過半が捏造や盗用、画像の無断転用といった不正に絡む内容でした。リトラクション・ウォッチによると、論文撤回数の10位以内に日本人が5人、30位以内に7人もいます。

 研究不正の弊害は多岐にわたります。税金などを投入した研究費が無駄になるうえ、時には医療にも悪影響を与えます。2021年に大阪大学などが、約160人の肺がん患者に治療薬を投与した臨床研究を中止しました。論文で捏造や改ざんが見つかりました。科学研究で日本の国際的な地位の低下が続く中、不正がまかり通れば研究力への悪影響は避けられません。

 研究資金を獲得するために論文を書き続ける必要があり、圧力にさらされた一部の研究者が不正に手を染めるとの指摘もあります。任期付きのポストが増え、成果を出し続ける必要性に迫られたことも一因かもしれません。明らかになった不正は氷山の一角で、多くが成果として認められたままになっている可能性があります。科学研究の営みが真実から遠ざかる恐れもあり、研究者の倫理意識の向上など学術界の自浄作用が不正防止の大前提となります。

(2024年12月10日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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