政治と行政の関係は国によって大きく異なります。スウェーデン・ヨーテボリ大学の政府の質研究所(The Quality of Government Institute)が2020年に実施した調査によれば、官僚人事への政治的影響度は国ごとに大きな差があります。
政府の公務員任用において、政治家との個人的なつながりではなく、学歴や職業経験を主な採用基準とするメリットシステムは、多くの国で採用されていますが、その度合いは国ごとに違いがあります。ノルウェーやオランダ、シンガポール、日本などは、メリットシステムの度合いが特に高い国とされています。米国はこの度合いが相対的に低く、人事面での政治的な影響度が高い国に入ります。
日本では、政治任用職が80人程度にとどまるのに対し、米国では政権交代時に約4,000人の高位職が政治任用で入れ替わります。このように米国は、先進国の中でも官僚機構への政治的介入度が高い仕組みが特徴です。
官僚組織の自律性を削り、過度な政治化を進めることが必ずしも良い結果を生むわけではないことは、社会科学の実証研究によって明らかになっています。過度な政治化は、政府の汚職や効率性の低下を招く可能性があります。メリットシステムを採用することで、政府の汚職が減少し、効率化や市民からの信頼、公務員のモチベーション向上といった好ましい結果が得られることが分かっています。
過度な官僚制度の政治化は、行政の専門性や、自律性を損ね、長期的には政策実施能力や公共サービスの質の低下を招く危険があります。トランプ政権をはじめとする急進的な官僚制度改革は、既存の官僚制度が抱える問題点への反応として理解できます。官僚制度を過度に弱体化させることなく、専門性を生かし、適切な政治的統制下の下で運営することが不可欠です。
(2025年1月28日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)