生殖補助医療で生まれた子ども―Ⅰ

近年の生殖補助医療(ART)の進歩には目覚ましいものがある。ART出生児は我が国全出生の2%以上となり、増加し続けるARTは不妊夫婦だけでなく、その親族、生まれてくる子供達を含めた極めて多くの国民に直接関与するようになっており、ARTの効率と安全性を持続的に維持・改善することは社会にとって喫緊の要事である。2005年以降、北欧諸国などから一国におけるART出生児の出生後の疾患罹患率を指標とする研究が次々となされ、その中でART児の予後は自然妊娠児に比較して不良であるという結果が報告されている。また新鮮胚移植と低出生体重、胚盤胞移植と早産など、特定のART技術と相関が報告されている周産期異常も存在する。ART出生児の予後調査体制整備は、今後ART自体あるいは特定の技術により増加の危険のある疾病・遺伝子異常が発見された場合、あるいは使用される培養液・薬品にあらたな懸念が生まれた場合に、我が国においてその影響を迅速に検証・危険回避するモニター体制として重要である。

現在著者が平成22年より厚生労働科学研究の研究代表者となり、生殖補助医療によって生まれた児の長期予後調査を開始している。この研究はART出生児3000人を対象として、身体発育のみならず、精神発達の追跡調査を15年にわたって検証するものである。現在得られている結果によれば、1)ART出生児のうち凍結胚移植由来児では出生体重が新鮮胚に比較し重いが、1歳6ヶ月の時点で差がなくなる2)ARTを含めた不妊治療群で生まれた子どもの精神発達が自然妊娠群に比して良好であるとの結果が得られている。しかしながら、施設によるばらつきも多く、様々な交絡因子も含めて今後詳細な検討が必要となるであろう。これらの情報収集のためには、生殖医療関係者の理解と協力が不可欠である。ARTで生まれた子どもの長期予後を検証することは、生殖医療に携わる者の最低限の責務であることを忘れてはならない。

(吉村やすのり)

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