世界的には利益至上主義が復活しつつあります。ESG(環境、社会、ガバナンス)や持続可能な開発目標(SDGs)といった理念は影を潜め、株主価値の最大化を優先する企業が資本市場で高く評価されています。日本で自社の社会的な存在意義を軸にしたパーパス経営において、うわべだけ取り繕うパーパス・ウォッシングが横行しています。短期利益を優先する結果、コンプライアンス違反も後を絶たない現状です。
今改めて、エシックスが問われる時代になっています。エシックスは、社会的な秩序を維持、発展させるための行動原理と定義され、そこには3つの要件があります。第1に社会的な秩序です。秩序には法令順守だけでなく、道義的責任や社会的責任が広く含まれます。第2に維持だけでなく発展させることです。旧来の秩序を壊し、新しい秩序を確立する覚悟が求められます。第3に行動です。理念だけではなく、実践して初めて価値があります。
パーパスは、未来のありたい姿を描いたもので、現実と大きくかけ離れたものですが、エシックスは日々のプラクティスが問われることになります。そして判断を行動に移す際に不可欠なのがプリンシプルです。どのような価値を最優先するかといった本質的な問いかけに基づいて行動する際の軸となります。
エシックスを基軸に、プリンシプルにのっとってプラクティスすることで、初めてパーパスという未来に近づくことができます。このエシックスを起点とした3つのPの有機的結合(シン三位一体)がエシックス経営の本質なのです。プリンシプルは時代に合わせて進化させていかなければなりません。パーパスを額縁から取り出してプラクティスするためには、一人ひとりがプリンシプルを自分ごと化する必要があります。
そのためのキーワードは、「統治から自治へ」と「人的資産から組織資産へ」です。経営者と社員の覚悟が規律ある自己変革の起動力となります。セルフガバナンス(自治)こそ良質な経営が目指すべき姿です。人財が桁違いに成長し、一体となって桁違いの成果を上げる組織資産への投資につながります。組織資産こそが企業ならではの人財資産を生み出し、エシックス経営の進化の原動力となります。
古来日本は、エシックス経営の聖地であったとも言えます。世界的にエシックスの重要性が注目される今こそ、日本が大切にしてきた経営思想に立ち返り、世界に大きく踏み出して行くべきです。

(2025年4月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)