臨床医学分野の研究力低下

 国立大病院は、診療や医師の教育だけでなく研究も大きな役割の一つです。病気の原因解明から新しい薬や治療技術、診断法の開発まで幅広く担っています。臨床医学研究の主要な担い手になっていますが、日本の研究力は低下しています。

 文部科学省科学技術・学術政策研究所がまとめた調査によれば、臨床医学の注目論文数の日本の順位は、2000年の4位から2020年には9位に後退しています。この論文数は、他の論文からの引用回数が全体の上位10%に入る質の高い研究成果の数を示しています。2020年の日本の論文のうち、他の論文での引用数が0~3回しかなかった論文が48.7%を占めています。他の先進国と比べてほとんど読まれていない論文の割合が高くなっています。

 研究を担う医師が多忙で研究時間の確保が難しくなっていることが一因となっています。国立大学病院長会議の調査によれば、研究の主力となっていく助教の約半数は、週平均の研究時間が0~5時間でした。研究時間が0時間の助教も15%を占めています。多くの患者を診察する必要があり、研究する余力がなくなっています。

 臨床医学の研究の遅れは国民の損失につながります。世界では革新的な医療技術が生まれています。患者数が少なく、利益につながりにくい治療薬などの開発は、製薬会社は敬遠しがちとなっています。医師が主導して研究開発する機会が減れば、治療薬や医療機器の開発が遅れることになります。

(2025年4月28日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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