米国への留学生の排除

 トランプ米大統領が、国内の有力大学から留学生を排除する政策を打ち出しました。アジアのエリート輩出システムを変えることを目的としています。米国の著名大学での留学実績を武器に、政財界などで活躍するキャリアパスが閉ざされようとしています。これまでは、ハーバード大への留学はアジアのエリートコースの典型でした。米国が対立する中国も卒業生は少なくありません。

 アジアの各界のリーダー候補が米国の大学を目指したことには理由があります。受け入れる側と送り出す側にウィンウィンのシステムが出来上がっていました。米国は、第二次世界大戦後対共産主義の国策として留学生を招いてきました。トルーマン大統領は政府によるフルブライト奨学金制度に関し、共産主義陣営による嘘や歪曲に対抗するのに効果的だとの見解を示していました。

 米国発症の経営学修士号(MBA)や行政学修士号(MPA)などの学位を国際標準にし、留学生が自国に戻ってもキャリアを築きやすくしました。冷戦後も米国で学んだ留学生の経験を、軍事でも経済でもないソフトパワーとして世界に広げてきました。アジア各国も戦略的にエリート予備軍を送り込んでみました。世界から優秀な人材を集める米大学を教育機関としてだけでなく、ネットワーク作りの場として位置付けていました。

 ハーバード大の留学生の中で、アジア出身が占める割合は高く、2024年度は日本、中国、韓国、シンガポール、インドだけでも4割近くに達しています。いまアジア各国は米国への留学生の獲得に動いています。日本も、米国の政策に差別された留学生に対する受け入れ支援プログラムを早急に創設することが必要です。

(2025年6月6日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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