iPS細胞による再生医療の実用化

 理化学研究所は、2014年に治療が困難な目の病気である網膜色素変性症に対して、iPS細胞をもとにした再生医療では初となる臨床研究を始めました。その技術を使い神戸アイセンター病院が2025年1月、網膜細胞をひも状にして重い目の病気の患者に移植する治療を先進医療として厚生労働省に申請しました。認められれば、iPS細胞を使う再生医療で初の先進医療になります。

 先進医療に認められても、治療全体が公的保険の対象になるわけではありません。保険収載部分のみが公的保険でまかなわれ、先進医療そのものは患者の自己負担になります。ただ先進医療特約の付く民間保険の対象になると、全額自己負担の自由診療より使いやすくなります。

 再生医療は症例を重ねてデータを集めるのに時間がかかります。公的保険の対象として、多くの患者に届けるには投与実績を増やす必要があります。再生医療の研究者の間でも、自由診療が増えればデータの蓄積に役立つと期待する声が出ています。

 国内の医療財政は逼迫し、大学病院などは経営に苦しんでいます。自由診療をうまく活用できれば、治療効果のデータを集めつつ、経営にも貢献します。2014年施行の再生医療等安全性確保法は自由診療も対象にしています。この下で質を担保した自由診療が実現できれば、今後の医療制度を考える試金石にもなります。

(2025年7月8日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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