企業におけるダイバーシティ推進(DEIからDEIBへ)

 グローバル化の進展により、働く人々のライフスタイルや価値観の多様化が進んでいます。企業として労働力確保が困難となり、多様な人材を受け入れ、その能力を最大限に活用することが、持続的成長には不可欠です。これまで日本企業は、性別、年齢、国籍、職歴などの違いにも多様性を認め、マイノリティも含めて、あらゆる人々を尊重するなどD&I(ダイバーシティ & インクルージョン)に注力してきました。昨年では、男女格差やマイノリティに対する差別な不公平な環境の是正(エクイティ)も重要視されています。

 DEIには、多様な人材が互いに刺激し合うことで新たな発想などが誘発され、組織の創造性や競争力を高めることが期待されています。半面、多様な集団は個々の価値観の擦り合わせが難しく、求心力を失いやすい欠点を持っています。多様な人材が働ける会社が増えたことは評価できますが、様々な属性の人材を受け入れる制度づくりに企業は追われるようになり、多様な人材をどう企業の競争力強化につなげるのかといった課題が見られるようになってきました。そのような社会的背景を踏まえ、DEIにBelonging(ビロンギング)の概念を加えたDEIBに進化しています。

 ビロンギングは、コロナ禍を契機にダイバーシティ先進国の米国で先に広がりました。出勤回避が広がり、社員の気持ちが所属企業から離れました。大量退職やそこそこ働けば良いとする静かなる退職を誘発しました。危機感を抱いた米国企業が頼ったのが帰属意識です。会社に、仲間・理解者がいる、自分の居場所があると訴えかける施策を打ち、人材引き留めと潜在能力の発揮を図りました。

 米国企業でビロンギング使用が広がる背景には、急速に高まっている反DEIの風潮もあります。トランプ政権は、ダイバーシティ施策を多数派に対する逆差別だとして激しく批判しています。米政府や保守派株主らは先進企業にダイバーシティ方針の撤回を迫っています。ダイバーシティを表立って標榜しづらい状況で、企業が目を向けたのがビロンギングとも言えます。女性や有色人種、LGBTQ+(性的少数派)といった特定集団だけを対象にせず、全ての社員が枠組みに入ります。

(2025年6月30日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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