わが国に残された戦略
1995年に約8,700万人だった生産年齢人口(15~64歳)は、2024年には7,400万人へと減少しています。国立社会保障・人口問題研究所の試算によれば、2070年になるとピーク時の半数にあたる4,500万人まで落ち込む見通しです。このような人口動態は企業の事業継続や社会インフラの維持に大きな変化を迫ることになります。
今、企業が人手不足に対して取るべき道は、賃上げの原資となる生産性向上と、自動化・省力化です。人口動態の制約が強まるほど、自動化投資のインセンティブは高まります。従来のロボットによる自動化に加え、企業は賃上げの原資を捻出する手段を模索しています。その最有力候補は生成AIの本格導入です。例えばセブン-イレブン・ジャパンは全店舗でAI発注システムを導入しています。生成AIが定期的なタスクを高速かつ高精度に処理し、人間は交渉や戦略判断に注力する分業体制が急速に定着しつつあります。
こうした生成AIへの投資は、スキルの評価軸を大きく書き換えることになります。労働者は企業の対応を受け身で待ってはいられません。生成AIによる草稿作成や社内データの検索支援ツールは、金融・通信など複数業種で正式運用に移行しています。
人手不足は単なる危機ではなく、日本経済を変革へ駆り立てる原動力となります。構造変化に適応できる企業には人材と資源が集まります。地方やエッセンシャルワーカーへの配慮を欠かさず、賃金と生産性がともに向上する好循環を構築することが日本に残された戦略です。

(2025年7月31日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)