スポーツ中継の放送収入

 国際オリンピック委員会によれば、2021年の東京五輪の放映料収入は約31億ドル(約4,600億円)と、夏季五輪では2004年のアテネ大会に比べて2倍超に達しています。2022年のサッカーワールドカップカタール大会の放映権料は、国内だけで200億円規模に達したとされています。1998年のフランス大会では10億円未満でした。

 日本は広告収入をもとにした地上波放送が長く影響力を持ち、伝統的にケーブルテレビや衛星放送が強いとされる米欧諸国より動画配信への課金文化が根付きにくいとされてきました。しかし、新型コロナウイルス禍を契機に動画配信サービスの利用者層の裾野が広がり、良質なコンテンツは有料でも人気が集まるようになってきています。国内の定額制動画配信サービスの利用率は2016年には9%だったのが、2025年には64%に達しています。

 動画配信大手は顧客との接点を広げることで、巨額な投資を回収する戦略です。玄関口として存在感が高まるのが、通信大手と組んだスマートフォンの通信料金とのセット売りです。価格競争一辺倒にならないように付加価値を打ち出しています。特にスポーツはライブ視聴による通信の需要が期待でき、顧客離れ防止にもつなげやすくなっています。

 スポーツ業界にとって放送収入増は、選手の給与アップや関連インフラへの投資促進などにつながります。地上波で見られなくなると視聴者が限定され、ライト層が減る可能性があります。スポーツ振興の観点からはマイナス影響を懸念する声も出ています。スポーツのネット配信は、日本のスポーツビジネスのあり方の議論にも一石を投じることになります。

(2025年8月27日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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