本来、社会保障は、分断の根源となる格差と差別を無くすために必要不可欠なシステムで、中間層を守ることを通じて民主主義を守ってきたと言っても過言ではありません。一部野党は、社会保険料の引き下げを主張していますが、ではその分の財源はどうするのか、財源構成も含めた社会保障の全体像を語らずに保険料だけ下げることはできません。保険料を下げて給付も減らしたら格差はさらに拡大してしまいます。
保険料を下げて得をするのは企業です。企業収益が上がり、内部留保が増えているのに賃金が伸びず、労働分配率が上がっていない構造こそが問題です。労働分配率は、企業が生み出した付加価値のうち、労働者がどれだけ受け取ったのかを示す指標です。数値が低いほど、利益などを賃金に分配していないと言えます。景気の拡大局面で低下し、後退局面で上昇する特徴や、資本金の規模が大きい企業ほど分配率が低い傾向があります。手取りを増やすといった目先のことばかりやっていたら国の借金が積み上がり、さらに身動きがとれなくなってしまいます。

(2025年9月7日 読売新聞)
(吉村 やすのり)