乳がん患者は年々増加しており、日本人女性の9人に1人は生涯の間に乳がんを発症するとされています。乳がんで乳房を全摘した場合、乳房再建が必要となります。乳がんの手術で失った胸のふくらみを復元する乳房再建の実施率は、都道府県間で最大10倍の差があります。乳房再建術は標準的な治療として保険適用となっていますが、実施率は約1割にとどまり、先進国の中でも低率です。

国内では、2006年以降乳がん切除後の乳房再建は段階的に保険適用になりました。遺伝子診断からの予防的切除も対象になるなどニーズは高まっています。しかし、実施率は低く地域格差があります。乳房再建ができる形成外科医は不足しており、乳腺外科医も少ない地域もあります。両者が連携できず、再建手術に手が回らない施設が多くなっています。
厚生労働省の公開データによれば、乳房を全摘した件数のうち、人工物と自家組織による再建数合計の割合は全国で12.5%のみです。都道府県別では最も高いのは東京都の26%で、最も低い山口県の2.6%と10倍の格差があります。乳房再建率は米国は乳がん手術に対して40%、韓国は乳房全摘に対して50%程度などで、日本は先進国の中で低水準です。

乳癌学会は、地域間と地域内の格差を小さくする方策を模索中です。再建の知識を普及させるため地方でワークショップを開き、再建方法の説明の提言やポスターなどで啓発に力を入れています。人口減や病院の経営難を見据え、集約化して得意分野で役割分担して診療するネットワーク構築が急務です。

(2025年9月13日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)