次世代創薬の実用化

 人体には薬などの異物が脳に入らないように妨げる血液脳関門という仕組みがあります。アルツハイマー病の既存薬のレカネマブなどはこの関門の突破は困難です。

 ロシュがトロンチネマブに採用した新技術であるブレーンシャトルは、ギリシャ神話に登場するトロイの木馬のように血液脳関門を欺いて、薬の成分を脳内に届けます。脳に欠かせない鉄を運ぶ物質であるトランスフェリンは、血液脳関門を通り抜けます。この仕組みを利用し、トランスフェリンに結合する物質に付く抗体の一部を新薬候補のガンテネルマブにつなげました。

 こうした取り組みは、レカネマブが切り開いたアミロイドβを狙う薬の次世代型にあたります。アルツハイマー病の原因物質と言われるものには、アミロイドβの蓄積が進んだ後に、脳の神経細胞内に蓄積するたんぱく質のタウもあります。これらの蓄積の仕方が異なる幅広い患者を治療できるように、タウを取り除く新薬の実現が期待されています。

 核酸医薬の一種で、タウを作る遺伝子の働きを抑える核酸を髄腔内に投与する新薬候補物質も開発されています。タウを取り除ければ、比較的症状の進んだ患者にも効果が期待できるかもしれません。検査技術の進歩で、脳内のアミロイドβやタウの蓄積を血液から調べられるようになってきました。患者の状態に合わせた個別化医療に向け、創薬は山場を迎えています。

(2025年9月30日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です