出向起業とは、主に大手企業の人材が退職せずに出向の形で新会社を立ち上げ、時間と労力を新会社に費やすことを指します。出向元に必ず戻れる条件で一時的に退職する場合もあります。資金は、起業する従業員自身やベンチャーキャピタルなど外部から調達するのが条件です。出向元の企業が出資する場合も20%未満に抑えています。給与は、出向元の現職の給与を引き続き支払われる場合や半額程度をもらってあとは出向先の報酬で補うケースなど様々です。出向元からまったく報酬を受け取らないケースもあります。
経済産業省は、新規事業の担い手を増やすとして2020年度から最大1,000万円を新会社に補助する事業を始めています。2024年度は21件、累計64件が対象となっています。

終身雇用、年功序列の慣行が根強く残る日本において、安定した大企業を辞めて起業するインセンティブは乏しいとされています。銀行や総合商社を経て起業する人は増えているものの、家族らの理解を得るために労力をかけていることになります。出向起業はこうした障壁を越える一つの方法といえます。出向元企業の知名度や信頼性が事業展開の後押しになっている面もあります。
出向元の大企業にとっては、埋もれた製品や技術の活用、新規事業の創出を目指すアイデアコンテストの出口として設定されています。実際に特許や先端技術を生かすことで機動的に事業が立ち上げやすく、質の高いスタートアップが生まれやすくなります。人材の流動性が高い欧米や中国に比べ、終身雇用がある日本は出向起業がなじむところがあります。経営人材育成にも効果的です。

(2025年10月6日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)