病院の赤字の増大

 病院は全国に約8千施設ありますが、半数が経常赤字になっています。厚生労働省によれば、経営情報を報告した約2,100病院のうち、49.4%が2024年度決算で赤字でした。前年度の41.5%から増加しています。特に経営が厳しいのは大学病院です。全国約80の大学病院の赤字は計508億円で、前年度の赤字額168億円から大幅に悪化しました。

 物価や人件費の上昇は一般企業と同じです。しかし、医療界には特殊な事情があります。一つは働き方改革です。長時間労働を見直すため、2024年度から医師の働き方改革を義務付ける法律が施行され、人件費のさらなる上昇要因になっています。勤務医が多い病院が診療所よりも影響は大きくなります。

 加えて医療機関の収入源である診療報酬の制度上の限界があります。診療報酬は全国一律で、政府が価格を見直すのは原則2年に1度です。急激な物価や人件費の上昇に対応できていません。公定価格のため患者が支払う医療費を勝手に上げることはできません。大学病院は赤字になる臓器移植などの高度医療も担っており、さらに経営が厳しくなっています。

 高齢化や人口減などで、手厚い治療が必要な患者を対象とする急性期病床は過剰になります。一方、リハビリ治療などを行う回復期や、高齢者の長期入院に対応する慢性期の病床は不足します。政府は団塊の世代が75歳以上になる2025年までの10年間で病院再編を促す地域医療構想を掲げましたが、十分な成果は見られていません。

 臨時国会で成立した2025年度の補正予算では、病院を含めた医療界全体を対象に、1兆円を超える大規模な支援を盛り込みました。賃上げや物価上昇に対する支援が約5,340億円と半分を占めます。病院の入院病床を削減した際、1床あたり約410万円を補助するため約3,500億円を確保しました。医療技術の進歩で抗がん剤治療など通院で対応できる医療が増えており、入院する患者は減っています。

(2025年12月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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