2030年までがラストチャンスと、政府は2023年新たな少子化対策であるこども未来戦略を閣議決定し、年間3.6兆円を投入しています。合計特殊出生率が人口置換水準を下回り始めた1974年から50年以上、政府の最初の少子化対策であるエンゼルプランができてから30年以上が経過しています。少子化に歯止めはかけられず、現時点では人口減少を止めることは不可能と考えるべきです。人口置換水準である合計特殊出生率2.07と現状の1.15の差はあまりにも大きく、少子化対策の効果もあまり期待できません。少子化対策により若者の経済状態が改善し、子育てのコスト負担が軽減しても、現状では出生率はカップルの考える希望出生率の1.6までしか上昇しないと考えるべきです。
今、少子化対策にとって必要なことは経済的支援ではなく、意識のイノベーションです。企業、男性、社会の三つの意識改革が必要になります。わが国には、「男性は仕事、女性は家事・育児」という性別役割分担意識が家庭内に根強く残っていました。夫の家庭参画が妻の心理的・身体的負担を軽減し、出産意欲を支えることにつながります。男性の関与が進まない最大の要因は、依然として長時間労働を前提とした日本型雇用システムにあります。男性が家庭に時間を割けない構造こそが少子化の要因となっています。
しかし、現在企業はジェンダー平等の推進とともに、男性の働き方改革を本気で進めるようになってきています。長時間労働の是正、成果で評価する人事制度、在宅勤務や短時間勤務の柔軟化などが、男女が共に働き、共に育てる社会の基盤となりつつあります。男性の育児参加も進み、ジェンダー問題を自分事として受け止める男性が増えるようになり、社会全体の変化を後押ししています。職場文化や管理職層の意識を変え、家庭や地域に関わる時間を社会的価値として正当に評価する仕組みをさらに展開することが大切となります。
残るは社会の意識のイノベーションです。価値観や制度面で真の多様性を認めるべきなのに、最も社会の変化が遅れています。異次元の少子化対策も、10年前に実施されていれば一定の効果がみられたかもしれません。経済的な支援や制度の創設だけで、若い世代が子どもを持ちたいと思える時代はとっくに過ぎてしまっており、子どもを持つことはリスクと考えています。少子化はもはや個人の選択の問題ではなく、社会の構造問題として捉えるべきです。旧態依然とした社会のあり方自体が、少子化の要因になっていることを認識すべきです。現在の少子化は若い世代のレジスタンスと捉え、子育て世帯への支援だけでなく社会の意識を変えることです。選択的夫婦別姓や女性活躍が認められない国で、Z世代は子どもを育てたいと思うでしょうか。長時間労働や労働生産性の低さ、男性の家事育児参加、男女均等度など解決すべき課題はありますが、今最も必要なことは社会観、人生観、結婚、家族観など社会の意識のイノベーションです。
これからの日本は、人口減少に歯止めをかけることを目指すよりも、人口減少を所与のものとして受け入れ、人口が減っても国民のウェルビーイングが高まるような方向を目指すべきです。wiseシュリンク(賢く縮む)です。人口減少が加速する社会にあって経済を縮小させないためには、労働参加拡大と1人あたりの労働生産性を高めることが必要となります。女性や高齢者を動員することにより、生産年齢人口1人あたりの生産性の向上により乗り切るしかありません。労働力人口の裾野をさらに広げ、就業者ベースの生産性を高めていけば、人口減少下でも国民のウェルビーイングをさらに高めることは充分に可能です。人口減少を止めるという無理な政策を重ねることをやめ、生産性を高めていくことにより、ワイズシュリンクを進めることが人口減少に対するあるべき姿と思われます。

(吉村 やすのり)





