出自を知る権利を考える

 日本産科婦人科学会が1997年に出したAIDに関する見解では、プライバシー保護のため精子提供は匿名とすることが前提となっており、ドナーや親の権利を優先していました。厚生労働省の専門部会は、2003年に出自を知る権利を認める初めての報告書を出し、生まれた子の権利を重視しています。法務省の出した民法改正の中間試案では、同意した夫を父とし、ドナーは父ではないと出しています。2020年の民法特例法では、AIDに同意した夫が妻の子の父親として、精子提供で生まれた子と父親の関係を明確にしています。

 国連の子どもの権利条約では、できる限りその父母を知る権利を有するとあり、日本も批准しています。出自を知る権利はわが国の裁判でも認められています。67年前に東京都立墨田産院で出生直後に別の新生児と取り違えられた男性が遺伝上の親を調べるよう都に求めた訴訟で、東京地裁は、2025年4月に幸福追求権を定める憲法13条が保障する法的利益と認め、親の調査を命じています。東京大学の調査によれば、子に(出自の)事実を知る権利があると答えた人は、性別や不妊経験の有無を問わず半数ほどに達しています。

 2025年の通常国会で参院に提出された法案では、18歳以上の当事者はドナーが認めればその身長や血液型、年齢の開示を受けられるとしています。しかし、公開情報が限られ、同性カップルやシングル女性もAIDに期待する中、法律婚に限定したことなどから反対もあり、審議入りせず廃案となってしまいました。

 日本産科婦人科学会はシンポジウムを開き、出自を知る権利は子どもに必要だとし、子どもが成人した後に提供者に会う権利をできるだけ尊重するよう学会の見解を改定する方針を明らかにしています。さらにトラブルを避けるため、提供者は親ではないという法律の規定が必要としています。

(2026年2月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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