財政的幼児虐待とは

 現役世代が、若年層あるいはこれから生まれてくる将来世代に社会保障費などの財政負担を押し付けることを、世代間会計の観点からボストン大学のユトリコフ教授は財政的幼児虐待と呼んでいます。世代間格差を研究する米国の研究者が使って広まった言葉で、若い世代やこれから生まれてくる子どもほど、とてつもない借金を背負わされているという意味です。日本においては、この財政的幼児虐待が深刻になりつつあります。皮肉なことに、増税を遅らせれば遅らせるほど国債発行額が増加し、この傾向は強まってしまいます。
 かつては税金や保険料を納める働き手がたくさんいたので、お年寄りの老後を支えることもできました。1950年には65歳以上の高齢者1人に対し、現役世代(1564歳)は12人もいました。それが今では、2.5人しかいません。2050年には、現役世代1.2人で1人の高齢者を支えていかなければならなくなります。会社員の夫が平均的収入で40年間働き、妻が専業主婦の世帯をモデルにすると、1940年生まれは、一生を通じて4930万円の「得」になりますが、65年生まれだと差し引きゼロ、2010年生まれは3650万円の「損」になります。高齢化は昔からわかっていたことであり、今後は現役世代が高齢者を支える仕送り方式から、自分で備える積み立て方式に変えていかなければなりません。

(2015年3月25日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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