法的親子関係について憶う(母子関係)―Ⅲ

 母親規定については、現行の民法や諸外国の立法にも矛盾することがなく、母子関係は分娩の事実により発生することになります。妻が第三者を介する生殖補助医療を受けるためには、夫の同意が前提となることは言うまでもないことです。代理懐胎の場合と異なり、卵子や胚の提供による生殖補助医療においては、分娩者・母ル-ルに従えば、卵子の提供者は母とならないことは自明の理です。
 しかしながら、これまでの母子関係に関する判例は、卵子提供者と分娩した者とが同一人物でない場合を視野に入れたものではありません。分娩した者は戸籍上に母として記載され、社会的にも母性が認められています。それらの事実によって、遺伝子学上の母でないものを母とするには問題が残ることになります。子を養育する意志のない卵子提供者がいる一方、代理懐胎を希望するクライアント夫婦のようにその意思のある者もいます。母は分娩の母なのか、遺伝学上の卵子を提供した母なのか、養育の母なのか、改めて問われることになります。
提供卵子を用いて妊娠・分娩した場合に、遺伝学上母子関係がないことを理由として、分娩の事実によって当然発生したとされる母子関係がくつがえる可能性のあることを懸念する向きもあります。このように、卵子提供を受けて妊娠、分娩する例外的な女性の存在も想定して、その女性に懐胎の事実および母となる意志が認められることを根拠として、分娩した女性を母とする一般的定義規定をおくことが望ましいと考えられます。
 今やDNA鑑定が簡単にできる時代になってきています。DNAの検査結果のみで子の将来を決めてしまうことには、ためらいを覚えます。フランスでは親子の血縁関係を調べることを目的としたDNA鑑定を禁止しています。鑑定は、時によっては家庭を壊し、子どもを傷つけかねない結果になることもあります。生物学的なつながりのみが真の親子関係ではないことを知ることが大切です。

(吉村 やすのり)

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