AIによるたんぱく質構造解析

たんぱく質は、酵素や組織の材料などとして、生物の体内で重要な役割を果たしています。そのカギを握るのが立体的な形です。たんぱく質は、くぼみに他の物質がくっついて化学反応を起こすなど、形が働きを左右します。構造の解析は、生命現象の解明や薬の開発などに欠かせません。しかし、構造解析には、巨大な分析用の施設など高額の装置が必要でした。
これまで数年かかることもあった構造解析の世界に、昨年激震が走りました。たんぱく質の構造を予測する手法として、AIを使ったソフトウェアであるアルファフォールド2が公開されました。世界最強の棋士に勝ったAIであるアルファ碁を生み出した、米グーグル傘下のディープマインド社が開発しています。

アルファフォールド2は、このアミノ酸の配列から立体構造を予測します。AIは、入力情報となるアミノ酸配列と実験的に解析された構造を正解情報として、これらの情報の特徴や法則を学習しています。学習したAIは、正解を知らないアミノ酸配列についても構造を予測できます。AI予測を使うと、解析結果を出す時間を短縮できる可能性があり、実験による正確な解析結果が増えれば、AIの予測精度も上がります。AIで、遺伝子の編集に使える新しいたんぱく質Cas7-11の構造解析ができています。
たんぱく質の働きには、形を変化させる動きも重要です。しかし、この予測はまだ難しく、たんぱく質とRNAなどの他の物資がどのように結合するかの予測もできません。まだ、構造生物学者の仕事がAIにとって代わられるような段階ではありません。しかし、計算科学を駆使して薬を開発する効率を上げる、微生物の遺伝子から構造を網羅的に調べて、プラスチックを分解する酵素を探すといった使い方も考えられます。

 

(2022年7月29日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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