わが国の再生医療の問題点

英科学誌ネイチャーが、わが国の再生医療製品における早期承認制度に対して、疑問を投げかけています。早期承認制度は、2014年に世界に先駆けて導入されました。一般の医薬品は治験で安全性と有効性の確認が必要ですが、再生医療製品は有効性の推定でよく、企業は製品を市場に投入しながら有効性を確かめられます。これにより、実用化までの期間が5年以上短縮できることになります。再生医療製品で扱う人の細胞は、個人差などにより品質にばらつきがあるため、医薬品と異なる評価方法が必要です。つい最近までは医薬品などの承認が欧米から何年も遅れるドラッグ・ラグが問題であったため、再生医療製品で同じ轍を踏むわけには行かないとの理由で、早期承認制度ができたといった経緯があります。
安倍政権は、2013年の日本再興戦略で再生医療の推進を掲げました。再生医療製品を輸出し、3兆円の医療分野の貿易赤字の縮小を目論んでいます。批判を浴びながらも相次いで臨床応用を進めるのは国の方針でもあります。今回の大阪大学のiPS細胞を使用する心臓病の治療に対しても、安全性や有効性の検証ができていないことが問題であるとされています。一方で、iPS細胞には、がん化や免疫抑制剤の副作用などのリスクがあります。ネイチャー誌は、iPS細胞という有望技術に期待する患者を裏切ってはならないと警鐘を鳴らしています。

(2018年6月18日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。