女性の社会進出、晩婚化などから、初産の平均年齢が高くなってきている。初産の平均年齢は30.1歳である。また、高齢妊娠・出産も確実に増えている。妊娠・出産には人それぞれに事情があり、仕事や子づくりに対する考え方も違うので、何歳で子どもを産むかは個人の自由である。
ただし、医学的にみると、妊娠・出産の適齢は25~35歳である。この年代が体力的、精神的に妊娠、出産にもっともふさわしい時期である。卵巣の機能は、20歳代後半でピークに達し、30歳代に入ると徐々に衰えてくる。35歳を過ぎると、卵子の老化が急激に進む。これは、体外受精をするようになってわかってきたことである。
当の女性、意外とこうした自分の体、とくに生殖にかかわる知識が乏しいのである。これは、そういう知識がない女性が悪いのではなく、中学生、高校生のときに女性の体のことや生殖の教育がきちんとなされてこなかったことに問題がある。
私は、思春期にきちんと女性の体について教育をすることが重要だと考えている。
コンドームの使い方とかセックスについてとかいう性教育はもちろん大事であるが、もっとも重要なことは自分自身、つまり、女性の体について知ることだと思う。“月経とはなにか”“女性ホルモンの働きとはどのようなものか”“子どもを産む適齢期はこういう理由で25~35歳である””40歳を過ぎたらこういうことに注意しなさい“”50歳頃に更年期を迎え、骨が弱くなったり、更年期障害を起こしたりする“といった、女性の体の一生のサイクルをきちんと教育することが大切である。パートナーや仕事の仲間となる男性に対しても同様である。
現在、教育現場では、そのような方向に進んでいるが、まだまだこうした啓発の活動は十分とはいえない。先ほども述べたように、どんどん社会に進出して、仕事にやりがいを感じる女性が増えている。キャリア形成に力を注ぐため晩婚化が進み、結婚したとしても子どもをつくらないというケースも増えている。
そのなかには、「つくらない」というより「つくれない」という場合もある。それは、出産や子育てをする自分自身においても、社会的なインフラなどの体制においても、準備が整っていないからであって、子どもをつくらない、つくれない夫婦が悪いわけではない。
しかし、30歳代後半、今でいう“アラフォー”になってくると、仕事に行き詰まったり、自分の力やこれからのキャリアの限界が見えてきたり、あせったりして、急に子どもをつくるほうに意識が傾く女性が多く存在する。その結果として、高齢妊娠・出産が多くなってきている。
しかし、高齢妊娠・出産には医学的にみてさまざまなハイリスクが伴う。そうしたリスクについて、男性も女性もまったく認識していない。実際の体の変化を伴う女性の中には、何の根拠もなく「自分は大丈夫。いつだって妊娠・出産できるはず」と勝手に思い込んでいる人が、決して少なくない。私が診ている妊婦のなかにも、リスクをきちんと説明しても、自分の身に起こる可能性のあることだと理解してくれない人がいる。だから、先ほど述べたように、思春期での教育が重要なのである。
(吉村やすのり)