選択的夫婦別姓問題は、数十年にわたり必要性を訴える声があがってきはいますが、政治は実現に向けた動きを見せぬままです。この問題は、いつしか自分と異なる考え方や属性を持つ人たちの生き方を認めるのかという多様性をめぐる象徴的なテーマとなってきています。
1898年明治民法が制定され、家制度の導入と共に、妻が夫の姓を名乗る夫婦同姓が定められました。その後1947年の民法改正により、夫婦はどちらかの姓を名乗るようになりました。1996年には、法制審議会が選択的夫婦別姓を盛り込んだ民法改正案を答申しました。それを受けて、2002年頃には自民党内で例外的夫婦別姓の議員立法の機運が高まりましたが、結局実現に至りませんでした。最高裁は、2015年に夫婦同姓の規定が合憲と判断する一方、制度のあり方は国会で判断されるべきと促しています。
最近は経済界からも声が上がるようになってきています。中央政界でも、夫婦別氏(姓)制度を早期に実現する議員連盟推進派の議連が立ち上がるなどようやく動きが出てきています。世代を超えて社会のあちこちで声があがり、様々な活動が行われています。今や世界的に政治が多様性に向き合う時代です。
性別、人種、性的指向、世代など、以前はマイノリティーだからと放置されてきた人々の生き方や価値観を認めることは、人権上の問題であるだけではありません。様々な人が互いに尊重し共生していける社会でなければ、社会も経済も持続可能ではないからです。生きづらさを感じる人々を放置し続ければ、社会は今のような激変の時代に柔軟に対応する活力を失い、少子化も解消されません。今こそ、多様性を認める社会への変貌をとげる時代です。その第一歩が選択的夫婦別姓の容認ではないでしょうか。
(2021年10月17日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)